破産手続の概要
破産とは、債務者の財産を処分して金銭に変えて、債権者に配当する手続きです。つまり、会社を畳んで清算するということです。
どの会社でも破産ができるわけではありません。破産手続の開始原因は、「支払不能」と「債務超過」です。やや曖昧なのが「支払不能」ですが、これは債務について継続的に弁済できない状態を意味するので、債務の一部だけ弁済できないような状態や一時的な資金繰りの行き詰まりは「支払不能」には含まれません。
破産を申し立てることができるのは、債権者、債務者、会社の取締役などです。債務者が破産を申し立てる場合には、自己破産と呼びます。
申立てが受理され、破産開始の決定を裁判所が行うと、公告及び通知がされます。社債発行会社の場合には、破産申し立ての段階でメディアに大きく取り上げられていると思われますが、正式な債権者に対する通知はこの段階で行われます。
その後の手続は、破産管財人(以下、管財人)と裁判所によって進められていきます。管財人は、裁判所によって選任され(ほとんどが弁護士)、処分対象となる財産の管理処分権を持ち、財産処分と分配と手続きを進めます。このときの会社は、法的には解散されており、清算のために存続しているだけであり、当然ながら経営陣には経営権はありません。
なお、債権者の意向を反映させるために、債権者集会の制度が一応あります。ただし、再生手続とは異なり、清算においては債権者が決議できる事項はほとんどないため、開催は任意となっています。管財人による配当を待つだけですので、債権者にとっても出席する意義はあまりないと思われます。
債権の弁済順位
まず、2種類に大別されます。財団債権と破産債権です。
財団債権は破産債権よりも優先して弁済されます。内容は、破産手続の費用、租税債権、一部の労働債権(破産開始前3か月間の給料、退職手当については退職前3か月間の給料総額)です。金額としては大きくはないはずです。
次に破産債権です。こちらは4種類に分かれていて、弁済順位が高い順で以下のとおりです。
- 優先的破産債権:一般先取特権など優先権のある債権は、他の破産債権に優先して配当を受けることができます。例えば、賃金債権を有する労働者は、優先的な配当が保障されます。
- 一般破産債権:無担保ローンや社債を含む一般債権のことです。再生手続では、営業継続のために営業債権は支払いを継続できたりしますが、破産手続ではもはや営業は行わないので、営業債権もここに入ります。一般的なシニア社債はここに該当します。
- 劣後的破産債権:そのほか、劣後的な取り扱いをされるものもあります。破産手続開始後の利息・損害金、費用などです。一般の破産債権が100%弁済を受けた場合に限り、配当を受けられます。
- 約定劣後破産債権:債権者・破産者間で手続き前に劣後的破産債権に劣後する取り扱いを合意していた債権のことです。劣後ローンや劣後社債がここに該当します。
上記にはありませんが、留意が必要なのは、担保付債権です。特定の財産について担保権を有する債権者は、破産手続の外で自由に担保権を実行しながら、債権の保全に取り組むことが可能です。それにも関わらず、依然として弁済に不足が生じた場合には、その分については、一般破産債権として破産手続で配当を受けられる対象となります。
社債保有者にとっては、債務者がどの程度の担保付借入を行っていたかが回収率を大きく左右することになります。経営危機が長く続いた末の破産であれば、銀行は貸付にあたりしっかり担保を取っているでしょうから、社債を含む一般破産債権の回収率は非常に低いものになると考えられます。
配当の金額ですが、同一順位の破産債権はその債権額に応じた割合で配当をしなければなりません。
(配当の順位等)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000075
第百九十四条 配当の順位は、破産債権間においては次に掲げる順位に、第一号の優先的破産債権間においては第九十八条第二項に規定する優先順位による。
一 優先的破産債権
二 前号、次号及び第四号に掲げるもの以外の破産債権
三 劣後的破産債権
四 約定劣後破産債権
2 同一順位において配当をすべき破産債権については、それぞれその債権の額の割合に応じて、配当をする。
繰り返しになりますが、上位債権が100%弁済を受けない限りは配当が行われることはありません。
倒産手続に至っている状況に鑑みると、一般破産債権が完全に弁済される事態は考えられず、よって劣後的破産債権以下の順位の債権の回収率はゼロと想定すべきです。
ちなみに、金融機関を中心に複数の劣後社債のクラスを発行して、それぞれ優先劣後関係を社債要項で規定するケースもありますが、破産法上においては、それらはいずれも約定劣後破産債権として同じく扱われるため、その中でさらに劣後的な取り扱いをできるかは明らかではありません(ただし、破産手続においては一般破産債権より劣後する債権に弁済が行われることは想定されず、意味のある議論ではありません)。
社債権者の手続き
社債権者は、社債要項の定めに従い、破産手続開始の決定がされた場合には会社からその旨の通知を受けます。
FA債の場合、社債権者は自ら債権の額・発生原因などを裁判所に届け出なければなりません。2017年に民事再生手続を申し立てたタカタの場合、申し立てと同時に、社債権者に対して連絡先の提供を呼び掛けていました。証券保険振替機構では最終投資家が不明であるためです。
個人向け社債のように社債管理者がいる場合には、社債管理者が社債権者に代わって届け出を行います。個人の投資家が届け出を行う必要はありません。
参考資料
「倒産処理法入門」山本和彦
「山一証券破綻の研究」河原久
https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/bitstream/10291/18581/1/kawahara_2002_shou.pdf
社債を発行するような大企業で、破産を選択するケースはほとんど見られません。多くが倒産ADR・民事再生手続・会社更生手続 により財務リストラを行って再生を目指します。事業にキャッシュを生み出す価値があれば、債務者にとっては債務カットされたとしても、その方が回収率は高くなります。過去に破産、すなわち廃業を選択した例としては、山一證券(1997年)があります。顧客損失を補填する飛ばしによる簿外債務が原因で買い手が現れる可能性が低く、また大蔵省のサポートを得られなかったこと等が背景と言われています。廃業は、従業員のすべてが職を失うわけですから、債権者だけでなくすべてのステークホルダーにとって最も痛みのともなう結果となります。