中国の不動産ディベロッパーであるKaisa(佳兆業集団)が流動性危機を迎えている。同社は、2021年12月7日に償還を迎える6.5%のシニアドル債 $400mの償還金を確保できずにおり、デットリストラに取り組んでいるところである。社債のリストラクチャリングは欧米では一般的だが、国内ではあまり知られていないので備忘として残しておきたい。
同社は直近決算である6月末時点では$6bn相当の現預金を保持していたが、流動性がひっ迫していることから、11/4に同社が保証をしている理財商品の支払いができなかった。理財商品に関しては、四半期ごとに元本10%ずつを返済するプランを検討しているとされる。同月には、Moody’sがCaa1からCa、S&PがCCC+からCCC-、FitchがCCC-からCに格下げをしており、これにより同社ローンも何らかのトリガーがヒットして、現在レンダーと調整中とのことだ。さらに、11/11には$58.5m、11/12には$29.9mのドル債の利払いができずに、これらは30日間のグレースピリオド(猶予期間)に入っている。
2021年ドル債において、現状起こっていることは、以下の通りとなる。
同社の目論見書によれば、同社のローンとドル社債はクロスデフォルト条項を含んでいると記載されており、ドル債のデフォルトが同社の国内債務のクロスデフォルトにつながる可能性がある(国内債務のタームを確認できていないため断定できない)。
2021年ドル債の目論見書を見ると、元本の支払いに失敗した場合、利払いのようなグレースピリオドは設けられていないため(これ自体は一般的な規定)、即座にEvent of Defaultが発生する。そのうえで、トラスティーもしくは25%以上の社債を保有する投資家グループが宣言をした場合に、期限の利益喪失となる。
つまり、期限の利益喪失に至る最終段階では、投資家サイドの主体的な宣言が必要となっており、かつそれがKaisaの他債務のクロスデフォルトを引き起こすトリガーとなる。契約上の権利ではあるものの、その行使に踏み切る判断は慎重にならざるをえないだろう。
ポイントは3つあると考えている。
- 中国政府との関係悪化。ヘッジファンドなどは気にしないかもしれないが、Pimcoなど大手ファンドは中国における債券投資ビジネスにも取り組むなかで中国政府との関係悪化は望まないだろう。金融機関に対して不動産ディベロッパーに流動性を供給させるなどリスクの拡大を抑える政府の取り組みが(大々的ではなくとも)見えているなかで、不動産ディベロッパーの信用不安を一段階上げるようなアクションは慎重さが求められる。一方で、Kaisaは中国不動産ディベロッパーのトップ30には入るが下位に位置する会社であり、業界2位のEvergrandeとはインパクトが小さい点が悩ましい。中国政府が規律を優先する可能性もある。このような不確実性があるなかでは、死亡宣告を出して、あとから政府のペナルティを受けるリスクを取るよりも、時間的な猶予を与えながら報酬を最大化させる戦略がより現実的な対応ではないかと思われる。
- 2021年ドル債の保有者はおそらく他の債券も保有している。クロスデフォルトが発動されれば、それらもすべてリストラの対象になるわけだが、清算型ではなく、再建型を目指す場合に期間が長引いたり、理財商品など優先弁済される債務に政府の意向が働くことにより想定した回収率が実現できない不確実性も無視できない。それを考えると、生かさず殺さずの状態のまま、直接交渉して果実を手前で勝ち取りにいくインセンティブが高いのではないだろう。もしかすると政府によるサポートも出てくるかもしれない。過半数の社債を保有する投資家グループは社債のwaiveの権限を認められており、これが交渉上のレバレッジとなる。
- 今回のオファー内容は、経済的な魅力が薄いものだった。2021年外債のデフォルトで会社倒産する可能性があるにも関わらず、2.5%というハイイールド債では一般に見かける程度のフィー支払いで、かつ95%の賛成を条件にするのは、そもそも成立を期待していないレベルである。95%という水準設定の論拠は会社からは明示されていないが、以下のように推察している。仮に100%の投資家が交換に応じたときには、$400m x 2.5% = $10m(すべて手数料)のキャッシュアウトになる。95%の投資家が応じた場合には、$380m x 2.5%(手数料) + $20m(元本返済) = $29.5mのキャッシュアウトとなる計算だ。既に$30m弱の利払いをパスする判断をしていることを考えると、$30mあたりがギリギリ支払える線なのだろう。Kaisaにとっては最大限出せるものを出したのかもしれないが、12/7に100%で返ってくるかもしれないものを2.5%の手数料で1.5年後ろ倒しにしろというのは無茶な要求だったと思われる。そして5%に残っていれば元本がすべて返ってくる可能性があるのだから、このオファーはインセンティブ設計が最初から破たんしている。次のドル債の償還は2022年4月($550m)だが、「2.5%受け取って他の社債の後ろの順番に回れ」と言われているようなものだ。今の同社債の価格は44.8セント程度で見えているが、しばらくセカンダリで塩漬けになって、これで次の社債の社債権者が交渉に成功して高い弁済率を実現したら目も当てられない。よって、投資家にとっては、オファーの修正というのは必須になる。交換債の元本を増やす等が要求事項としては考えられよう。
本日は12月5日(日)であり、来週の12月7日(火)の償還日に向けて、政府の動き方を含めて、どのような展開になるか注目していきたい。
11月25日:エクスチェンジ・オファー及びコンセント・ソリシテーションの公表
1.5年先に満期を延期した新たな債券に同額面で交換する代わりに、2.5%のコンセントフィーを支払うというオファーだが、残存社債の95%以上の同意がなければ成立しないという厳しい制約が付されていた
12月1日:Pimco/Ashmoreを含む投資家グループ(50%超を保有)が同オファーに反対を表明
12月2日:応募締切り
12月3日:コンセント・ソリシテーションの不成立を公表