デフォルトすると何が起きるのか:会社更生手続

会社更生手続の概要

会社更生手続は、大幅な債務減免を行うことによって過剰債務を解消し、財務内容の改善を図って債務者企業を再建する手続です。

会社更生手続は株式会社のみが対象です。資産、負債、資本のそれぞれについて法的拘束力をもってリストラを行います。管財人が経営を引き継いだうえで、債務カットを含む更生計画を策定、債権者を中心とする関係者集会での承認を経て、実行することになります。

  • 資産:時価に評価替えをして会社の財産価値を確定させます
  • 負債:債務減免や支払期日の猶予によって債務超過を解消します。無担保債権だけでなく、担保付債権の権利変更も行われます
  • 資本:新たなスポンサーが出資を行い、再建に向けた新たな経営体制を整えます

再建型のなかでも、会社更生手続のメリットは以下の3点と言われています。

  1. 第三者が会社内部に入ることで、手続きの透明性が担保されます
    • 商業債務、退職給付債務、社債、ローンなど様々な関係者が入り組む場合、私的整理による当事者間での解決が望めないケースがあります。裁判所・管財人が入ることで、手続きに強制力と透明性を持たせることが可能です。この点は、特に税金が投入される際には政治的に重視される可能性があります(JALもその一例)
  2. 担保権者の権利実行を禁止し、権利内容を更生計画で変更することが可能です
    • 事業継続に必要な重要財産に担保が付されている場合、債権者による担保実行を禁止することで事業継続を行うことができます
    • 破産手続や民事再生手続では随時の担保実行が認められています
  3. 会社分割・合併などを更生計画によって実行することができ、株主総会決議といった会社法上の手続きが不要になります
会社更生法の事例

マイカル(2001)、日本航空(2010)、ウィルコム(2010)、武富士(2010)、エルピーダ(2012)、タカタ(2017)

スケジュール

更生手続は、担保権者を含む多数の関係者との合意形成に基づく複雑な再生手続きであり、標準的なスケジュールでは、開始決定から更生計画の認可決定までに1年2か月~1年半程度を要すると想定されています。

社債権者は更生計画に基づき弁済率が確定するまで1年以上は待たなければいけないということになります(ただし会社更生法では手続開始後の社債売却は禁止されておらず、相対での売却可能性は残されています)。

なお、現経営陣の一部が経営を引き継ぐDIP型更生手続が選択された場合には、上記の期間を6か月ほどに短縮することが可能です。

更生手続で行うことは、① 債権調査、② 財産評価、③ スポンサー決定、④ 新たな再建計画の策定、⑤ 再建計画について承認決議、となります。

エルピーダの事例

DRAMメーカーのエルピーダは、稼働工場に多数の担保設定があり、担保権の実行を制約できる会社更生法を選択。また、違法な経営責任がないとのことで、坂本幸雄社長が管財人に就くDIP型となった。しかし、海外ファンドを中心とする社債権者が更生案に反対、独自に更生案を提出するなど紆余曲折があり、最終的に開始決定から1年と、DIP型としては長い時間を要することになった。

2012年2月継続企業の前提に関する事項の注記
会社更生手続の申立て
社債及び新株予約権付社債の期限の利益喪失
2012年3月 スポンサーの選定開始(野村證券がFA)
会社更生手続の開始決定
2012年5月更生債権等の届出締め切り
スポンサー入札の結果、マイクロンと協議開始
2012年7月マイクロンとスポンサー契約に合意(100%出資)
2012年9月マイクロンの支援に基づく更生計画案の提出
2012年10月更生計画案付議(社債権者から提出されていた案は却下)
2013年1月社債権者集会で一部社債について更生計画案への反対を可決
2013年2月更生計画が可決、東京地裁が認可
2013年7月マイクロンによる全株式取得が完了
マイクロン社プレスリリースを参照のうえ作成

会社更生手続の申立て

会社更生手続を申し立てることができるのは、会社自身のほか、資本金の1/10の債権を有する債権者、議決権の1/10以上を有する株主に限られています。

申立て以降は、債務者の資産が隠匿されたり、債権者が個別執行をすることで、再生が困難になることを避けるため、財産の仮差押えや処分禁止、借財の禁止、債権弁済の禁止が規定されています。この段階で担保権者は個別に担保権を実行することができなくなります

開始決定

申立てを受けた裁判所は、更生手続開始を決定し、債権届出期間と調査期間を定めて官報に掲載して公告を行います。これにより債務者の財産に対する強制執行、仮差押え・仮処分の執行、破産等の手続きは禁止されます。

また、株式・社債の引受人の募集、配当、会社分割・合併などのM&A、減資など、組織に関する基本的事項の変更が禁止されます。これらは更生計画によってのみ行うことができます。

同時に、裁判所は管財人を選任します。管財人として弁護士が選定されることが多いです。

管財人とは?

更生手続では、財産の管理処分、事業経営の権限が、旧経営陣から管財人に移転します(裁判所の許可は必要)。この権限をもとに、管財人は事業運営と更生手続を進めていくことになります。

弁護士が法律管財人、スポンサーが開始決定時に決まっているときにはスポンサー派遣の役職員が事業管財人となって、役割分担される事例が多いようです(JALの事例では企業再生支援機構が管財人となりました)。

債権届け出

債権者は、債権届出期間内に、債権の内容等を裁判所に届け出なければいけません。

届出期間を経過した後の届け出は、債権者の責めに帰することができない場合に限り認められていますが、単に失念したという場合には認められる可能性が低いと考えられています。また、上記に関わらず、更生計画が認可された時点で届け出がない権利はその事由にかかわらず失権するという厳しい規定になっています。

なお、社債管理者がある社債については、社債管理者が、社債権者に対して負う善管注意義務に依って、社債権者に代わり債権届出を行わなければいけないものと考えられています。個人向けに発行されている社債は社債管理者が設置されることが一般的ですので、投資家における手続は不要となるでしょう。

他方、社債管理者がないFA債は、社債保有者が自ら届け出る必要があります。口座管理機関(ほふり)上の名義がカストディアンになっており、最終保有者を知ることができないため、発行会社からの保有者調査に応じることが最初のステップになります。

http://www.tkjpkk.com/pdf/170628_JP.pdf

更生計画の手続き

会社更生法では、債権者集会に相当する機関を関係人集会と呼びます。名目上、株主にも議決権が認められているためです(債務超過の場合には認められないため現実的には参加できない)。

関係人集会は、債権者・担保権者・株主等と多様な利害関係者で構成され、更生計画案の決議においては、組ごとに決議が行われます。組み分けは、一般債権者、担保権者、株主は必ず別の組にしなければいけません。

更生計画の可決要件

一般債権:議決権総額の過半数(議決権は債権金額ベース)

担保権:期限の猶予は2/3以上、減免その他担保権に影響を及ぼす内容は3/4以上、事業の全部の廃止は9/10以上

株式:議決権の過半数(債務超過でない場合のみ議決権あり)

法的整理をせずに債務減免をする場合、一般的に、ローン契約の参加行すべての承認を得る必要があります。それに比べて、法的整理である会社更生法では一般債権者の過半数の賛成で足りますこれにより再建計画に応じさせる強制力を一定程度もつことになります。デットリストラでローンレンダーの間で合意が得づらいケースでは法的整理が有力な選択肢になります。

一部の組が計画案に同意しない場合は?

裁判所は、更生計画案を変更するなどして、不同意の組の権利を保護する条項を定めて、認可決定を行うことができます(クラムダウン)。一般債権者の場合には「破産した場合の予想配当額を弁済すること」です。これにより、更生手続を確実に前に進めることができます。

計画案に不満があるときは?

上記の通り、更生計画案の可決要件が緩かったり、保護条項の設定により強制的に裁判所が認可することができたりと、債権者は管財人・スポンサーによる更生計画案を強制される側面があります。

そのなかで債権者が、更生計画案に影響力を発揮する方法も用意されています。

① 債権者委員会の設立

債権者委員会は、債権者の過半数の賛成により立ち上げが可能で、債務者・管財人は、債権者委員会からの意見聴取、債権者委員会への報告の義務が課されます。

委員会は債権種別ごとに設立可能です。無担保債権者は広範にわたることから、過半数の要件を満たせるケースは限られるでしょう。他方、担保権者は、複数のローンレンダーに限られるため、担保権者委員会を設立する事例は少ないながらも確認されています(エルピーダ等)。

② 更生計画案の提出

管財人とは別に独自の更生計画案を提出することも可能です。その場合、両案をすり合わせるプロセスに入ります。意見の隔たりが埋まらない場合には、両案を付議することになります。

ただ、更生計画案に至っては公表情報ベースで適切な立案ができない可能性が高く、またかなりの労力を要するため、債権を二束三文で買い集めて回収率次第で大きな利益を得られるポジションにある投資家(ディストレストファンド)でないと手を出しにくい方法です…。

社債権者は何をすればいい?

社債管理者設置債の場合、社債管理者は関係人集会において議決権の行使をするために、社債権者集会の特別決議が必要になります。決議内容は、更生計画案に賛成もしくは反対の議決権を行使する権限を社債管理者に付与するというものです。

社債管理者は、この決議に基づいて、更生計画案に賛否を投票します。

賛成・反対のいずれについても社債権者集会決議が成立しない場合、社債権者は、更生債権等の届け出をするか、裁判所に議決権行使の意思を表明しない限り、議決権はありません。計画案に無関心な小口の社債権者を分母に含めると、計画案の可決が困難になりことへの配慮です。

FA債の場合、社債権者自身が更生計画案への投票を行う必要があります。

債権の弁済順位

債権の種類

会社更生手続きにおいて債権として認められるものは以下の通りです。上から順に優先される取扱いがされます。

  • 更生担保権(担保付債権):会社の財産の上に担保権(特別の先取特権、質権、抵当権等)を保有している場合、更生担保権として更生計画により権利変更の対象となります(債権者が独自に担保権を実行することは禁止)。債務減免は定められず、期限の猶予のみ定められることが多いようです。
  • 優先的更生債権:一般先取特権など優先権のある債権は、優先的な扱いを受けることができます。例えば、給料債権や退職金債権が含まれます(ただし一定範囲までは共益債権として随時弁済されます)。
  • 一般更生債権(無担保債権):無担保ローンや無担保社債です。更生計画により、債務減免と期限猶予の双方が定められることが多いようです。
  • 約定劣後破産債権:債権者・会社間で手続き前に一般更生債権に劣後する取り扱いを合意していた債権のことです。劣後ローンや劣後社債が該当します。

この他に、給与債権などを含む共益債権や租税債権があります。共益債権は随時弁済されます。

更生計画による債権変更の内容

債務減免と期限の猶予が求められます。

更生担保債権は、債務減免はなし、期限の猶予のみを求められることが多いです

無担保社債を含む一般更生債権は、債務減免に加えて、期限の猶予を求められることもあります。更生計画が、自主再建型の場合は、返済原資が将来の事業キャッシュフローになるわけですので、期限の猶予が求められます。他方、スポンサー支援型の場合、スポンサーの出資・融資、もしくは一部事業の売却資金を返済原資として一括返済されることが多いようです。更生手続の場合、期限の猶予は最長15年となります。

弁済順位の考え方

請求権の優先順位は、更生担保権(担保付債権のうち担保されている部分)、一般の先取特権その他一般の優先権がある更生債権一般の更生債権(無担保債権)、約定劣後更生債権優先株式その他の株式、となります。

更生計画では、権利の順位によって内容に「公正かつ衡平な差」を設けなければなりません。また同一種類の権利は、債権者平等原則に従う必要があります。

公正かつ衡平な差とは?

清算を目的とする破産法では、上位債権が100%弁済されれば、その下の債権の弁済が始まるという機械的な弁済率の決め方でした。一方、会社更生法では、異なる権利の順位を考慮して「公正かつ衡平な差」を設ける限りにおいては、一定の自由度が認められています。

これは、上位の権利者が下位の権利者よりも「相対的に」不利益な扱いを受けてはならない規律、と理解されています。

例えば、150億円の返済原資に対して、100億円の上位債権、100億円の下位債権があると仮定します。破産手続の計算では、上位債権が100%(100億円)、下位債権が50%(50億円)といったように上位の満額返済によって初めて下位債権が弁済されます。他方、会社更生法では、上位債権90%(90億円)、下位債権60%(60億円)と割り付けることが可能になります

しかし実際には、担保権者が自らの弁済率を引き下げることを許容するケースは想定されず、更生担保権の弁済率は100%に設定されることがほとんどです。よって、シニア無担保社債の場合には、この考え方によって弁済率が改善するようなケースは期待すべきではないでしょう。

債権者平等原則とは?

更生計画における権利変更のルールとして、同一種類の権利者は平等に扱われなければいけません

(更生計画による権利の変更)

第百六十八条 次に掲げる種類の権利を有する者についての更生計画の内容は、同一の種類の権利を有する者の間では、それぞれ平等でなければならない。ただし、不利益を受ける者の同意がある場合又は少額の更生債権等若しくは第百三十六条第二項第一号から第三号までに掲げる請求権について別段の定めをしても衡平を害しない場合その他同一の種類の権利を有する者の間に差を設けても衡平を害しない場合は、この限りでない

出所: 会社更生法

例外規定がある点に留意が必要です。これにより、内部者に対する債権の取り扱いを劣後させたり、弁済率について債権金額の大きさに応じて傾斜をつけることが可能になります。後者は、債権金額が大きいほど弁済率を下げるということです。必ずしも法的な整理がついていないようですが、最大債権者であるメインバンクの責任を弁済率に反映するという考え方が背景にあります。

なお、上記引用にあるように、「少額の更生債権」について別段の定めをすることが認められていますから、額面の小さいリテール向け社債の弁済率が高めになる可能性はあります。例えば、ウィルコムは弁済率が13.3%でしたが、1000万円までの債権は100%となりました。リテール社債を発行していたマイカルは、リテール社債を30%、ホールセール社債を10.2%に設定しました。

 

参考資料

「倒産処理法入門」山本和彦
「企業再生の法務」森・濱田松本法律事務所
クレジット投資~Lower for Longer&COVID-19下でのSIC戦略」大和証券