マレリHD:民事再生手続きを申請

事業再生ADRの成立を目指していたマレリHDですが、6月24日に東京地裁に民事再生手続きの開始を申し立てたと報じられました。ブルームバーグによれば以下の通りです。

  • 第3回債権者会議で一部金融機関から再建案について同意を得られず事業再生ADRは不成立
  • 同日に東京地裁に民事再生手続きを申請。債権調査の手続きを省略する簡易再生
  • 採決では90%以上の債権者から同意が得られ、今回の再建案がそのまま適用される可能性が高い(マレリHD広報の見解)
  • 8月上旬には計画に基づき資本再編を完了する予定

なお再建案の採決では中国系金融機関が反対に回ったとの報道もあります。

簡易再生とは?

民事再生法の特則に基づく手続きであり、届出再生債権の60%以上の債権者が①再生計画案および②債権調査・確定の手続きを省略することに書面で同意している場合に、債権調査をスキップしてプロセスを進めることができます。一部手続の省略が認められているだけであり、民事再生手続であることには変わりありません

今後は速やかに再生計画案決議のための債権者集会が招集されることになります。再生計画案は、事前に60%以上が同意している再建案のみが決議対象になり変更は認められていません。よって、4,500億円の金融支援(カット率42%、各行プロラタ、債権放棄+DES)、KKRによる$650Mの出資、営業債権をリストラの対象から外す等の計画は維持されます。なお、民事再生手続における権利変更は、再生債権者の間で平等でなければならず、メインバンクの負担を重くするメイン寄せなどは認められません。事業再生ADRにおける再生計画の段階で既に各行のプロラタ負担になっており、あらかじめ民事再生手続への移行もシナリオに入れていたようです。

再生計画案の可決には、①債権者集会の出席者の過半数の賛成および②議決権総額の2分の1以上の賛成が必要です。すでに90%以上の賛成が得られている状況ですので、このまま可決されると思われます

なぜ事業再生ADRが成立しなかったのか?

前回の記事では、「法的整理だとマレリHDの取引先にも影響が及ぶ可能性があり」KKRの経営責任について「心情的なものは飲み込み、KKRをいつでも外せるようにしておいて、とにかくターンアラウンドを前に進めるという現実的な判断がされると予想しています」と述べました。

マレリHDが、再建案で100%の同意を取れなかったのは、中国系金融機関が反対に回ったためとの報道があります。PRESIDENT Onlineでは「中国の4大銀行の一角である中国建設銀行のほか、Bank of China、第一商業銀行、Mega Bank DBSが融資している」とのコメントが紹介されており、一部週刊誌では中国系が1,500億円の債権を有するとされています。リストラ対象の債務総額が1兆1,300億円であり、反対票はその10%、1,000億円強に相当することから、数字上も中国系反対説は整合的です。

そうだとしても、今回の事業再生計画に反対するという理由が判然としません。事業再生ADRが不成立になった場合、民事再生手続に移行して同じ再生計画が付議されることは予見できたため、仮に債務カット比率などに不満があっても経済リターンは変わらないからです。また、その点が致命的なのであれば、メインバンクのみずほ銀行も調整をしにいったはずです。

あえて理由を挙げるならば、裁判所が再生計画が不公正・不衡平でないことや再生計画の遂行見込みがあることを確認して認可してくれるという手続きの透明性でしょうか。中国において、過去には利益調整の困難さから私的整理は活用されてこなかったものの※1、現在は当局の推進もあり債権者員会を構成して私的整理で債務再編を行う例も出てきているようです。よって私的整理自体がNGということはないはずです。また中国の債務再編プロセスは広州恒大集団(Evergrande)の例※2を見ても分かる通り、日本よりはるかに不透明であり、日本案件においてだけ透明性を重視するというのは不自然です。あるとすれば、海外融資案件で損失計上することについて中国規制当局への説明のしやすさかもしれません。
※1 「法廷外私的整理の困難状況、問題点及び解決策」 胡利玲(2016)
※2 デフォルトを起こしているものの法的手続きは取られておらず広東省政府と中央政府の国有企業からなるリスク管理委員会が設立され債権者不在で再建策を策定中

上記もあくまで推察であり、実際のところなぜ反対したのかは分かりません。本件の教訓の一つは、中国の金融機関は日本や欧米の金融機関とは全く異なる価値観で動く可能性があり、彼らにキャスティングボードを握られると日本の金融機関が得意とする予定調和が成り立たないということかと思います。時間を無駄にした感がある本件は、特に今後の事業再生ADRにとって参考になる事例になったと思います。