マレリHD:スポンサーがKKRに決定。経営責任と現実のバランス

Bloombergによると、事業再生ADRの成立を目指すマレリHDは、5月31日に開いた債権者集会で、スポンサーをKKRに選定したことと事業再生計画案を明らかにしました。主な内容は以下の通りです。

  • 債権放棄とDES(債権の株式への交換)は計4,500億円。負担額は融資割合に応じたプロラタ
  • KKRの既存出資分である約2,000億円を消却。新たにKKRから$650Mの増資を引き受ける

KKRの株主責任

過去に当ブログで、「2度のLBOによって財務状況が脆弱であったことも本件の一つの要因であり、スポンサー選定にあたっては、そのストーリーを描いたKKRの株主責任が問われる」と指摘をしました。

今回の事業再生計画案では、既存出資分が全額消却となっているため、株主としての有限責任は果たしたと評価できます。事業再生ADRが成立すればKKRがスポンサーとして再び株主となるわけですが、カルソニックカンセイ買収とマニエッティ・マレリとの経営統合による成長戦略を推進したKKR(2,000億円の全損)と、ターンアラウンドを行うKKR($650Mを出資)とは別の主体であるという整理は筋が通ります。ターンアラウンド・マネージャーとして良い提案だったから、結果的にKKRがスポンサーに選定されたということです。

事業再生ADR成立に向けたハードル

過去の記事で述べたように、事業再生ADRのメリットの一つは「一時停止通知(アナウンス)から約3~4か月で債権者会議で再生計画に関する承認を得ること」によって企業価値の毀損を最小化できることですが、本件は3月1日の事業再生ADRの申請から事業再生計画の提示まで3か月が経過しています。会社は6月下旬に第三回債権者集会を開催して成立させたい意向ですが、金融支援の当事者である全ての債務者の同意を得るために時間がかかる可能性があります。

債権者は、事業再生計画に賛同するにあたり、「なぜ一度失敗したKKRに再び経営を付託するのか」について正当性を整理する必要があります。KKRはパッシブな株主ではなく、マレリを通じて業界再編を仕掛けていった経営と一体化した株主です。(これはPE業界の慣例ではあるものの)マレリHDから経営指導料という経営支援に対する対価も受けています。株主責任は出資額の全損という形で取ったものの、経営の資質(間接的でも)を問う声は当然出てくるでしょう。銀行担当者が「マレリの財務が悪化したのは外部環境のせいであり経営には問題がなかった。だからKKRに任せる」と言い切れるかどうかに掛かっています。このことは事業再生計画の成立の不確実性を不必要に高めており、会社がKKRをスポンサーに選定したことで本来は負う必要のないリスクとコストを債務者は負わされています。利害が入り乱れるなかでの動きなので教科書通りにはいかないものの、会社だけのことを考えると、事業再生ADRのスポンサー候補からKKRを外しておくか、JALのように民事再生手続きで透明性のあるプロセスを踏んだほうが、早期に再生手続きが進んだのではないかと思います。

また潜在的な問題として、2,000億円の損失を負った状態のファンドが経営をする場合、必要以上に苛烈なリストラやハイリスク・ハイリターンな経営戦略を取ることで短期的に過去の損失を取り戻しにいく可能性があります。

経営責任の点も含めて、債務者の立場からは、KKRに対して一定程度のコントロールを利かせる仕組みを求める声があってもおかしくありません。

今後の注目点は、DESで銀行団がどの程度の議決権を有するのかというところだと思います。すでに3か月もの時間を使ってしまい、法的整理だとマレリHDの取引先にも影響が及ぶ可能性があり、KKRという選択肢しかない、状況では債務者側には反対の余地は限られるように思われます。心情的なものは飲み込み、KKRをいつでも外せるようにしておいて、とにかくターンアラウンドを前に進めるという現実的な判断がされると予想しています

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